夫婦の一方が不倫をしたことで、慰謝料の請求が問題になります。これは不倫が「不貞行為」という民法上の不法行為に該当しうるからです。
不貞行為とは、相手との「肉体関係」を基本的に意味します。したがって、単なるメールのやりとりやデートだけでは、基本的に不貞行為にはならないと考えられています。
以下では、不貞行為がある場合の慰謝料請求のポイントを解説します。
慰謝料の金額は、請求する方と支払う方のお互いの合意で決めます。合意があれば、基本的にはいくらでも構いません。しかし、合意ができない場合は、調停あるいは訴訟で決めることになります。 不貞行為の場合、次のような要素を総合的に考慮して慰謝料が算定されます。
最もポイントになるのは、⑧です。つまり、不貞が原因で離婚に至ったかどうかです。 不貞が原因で離婚した場合の慰謝料の相場は、100万円~300万円と言われています。 これに対し、離婚まで至らない場合は、「被害が小さい」と考えられて、数十万円にとどまるケースもあります。 不貞慰謝料を請求する場合は、まず離婚を先行させるのか、不貞相手への請求を先行させるのか、順番はよく考えた方がよいでしょう。
不貞相手と配偶者のどちらにも請求できるが、もらえる金額は変わらない
不貞という行為は、不貞配偶者と不貞相手のいわば「共犯」といえます。ですので、損害賠償について、「共犯者」である2人が連帯責任を負うことになります。この場合、2人が共同で負う債務の性質を「不真正連帯債務」と呼びます。 これは、「被害者は、どちらか片方だけに請求してもよいし、両方に請求してもよい」ということを意味します。 下の図では、AさんとBさんが夫婦で、Bさんは不倫相手Cさんと不貞行為をしました。BさんとCさんは、Aさんに対して共同して、Aさんの被った損害全額の賠償義務があります。
慰謝料(全額)の算定額が300万円だったとしますと、Aさんは、Bさんだけに300万円を請求することもできますし、Cさんだけに300万円を請求することもできますし、両方に請求することもできます。 ただし、合計で300万円以上を受け取ることはできません。
先ほどの例で、Aさんが、Cさんに対してだけ慰謝料を請求し、Cさんが全額支払った場合、この後はどうなるでしょうか。 BさんとCさんは「共犯」ですから、Cさんは自分だけ負担するのは不公平と考えるかもしれません。 そのため、下の図で全額300万円を支払ったCさんは、Bさんにその責任割合分を負担するよう請求できます(求償といいます)。法律的には、Cさんは、Bさんが本来払うべき部分を「立て替えていた」と考えるのですね。
BさんとCさんの責任割合が5:5である場合は、CさんはBさんに150万円を請求できます。 この責任割合は、「どちらが積極的に不貞を主導したか」などの程度に応じて修正される場合があります。
肉体関係を証明できる証拠が必要
メールにLINE、Twitter、Facebook――。これら最新のツールが証拠になるケースは多くなっています。 しかし1回のメールやLINEのやり取りだけでは証拠としては強くありません。「ただの友達」「帰るのが面倒くさくて、1回泊めてもらっただけ」との抗弁がされるかもしれません。 関係に継続性があり、肉体関係があることをはっきり証明できるような証拠を集めたほうがよいでしょう。明確な証拠がなくても、いくつかの証拠を掛け合わせて立証していくことも多くあります。